眼瞼下垂手術後の左右差について
そこで、今回はなぜ左右差が出てしまうのかという理由と、左右差が出てしまった場合の対処に関して、解説していきたいと思います。
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(1)左右差が出てしまう理由
①腫れ
まぶたを切開すれば当然腫れますし、局所麻酔を注射すればその分当然腫れます。理屈の上では腫れ具合が全く左右対称に生じれば、術中調整に大きな影響は与えません。しかし、実際は必ずしも左右対称に腫れるわけではありません。どちらかのまぶたの出血が多かったなどの理由で腫れ具合に大きな差が出てしまうことも稀にあります。また、まぶたの裏側に近い部分(ミューラー筋や眼瞼挙筋など)が腫れた場合、わずかな腫れであってもまぶたの開き具合に大きな影響を及ぼすことがあります。このように腫れ具合に差が出ることはあり得るのですが、腫れの差が原因となって術中調整が極めて難しくなることがあります。
②麻酔
局所麻酔には主成分のリドカイン及び副成分であるエピネフリンが含まれています。リドカインは眼瞼挙筋に影響を及ぼして、まぶたの開きを悪くします。また、エピネフリンはミューラー筋に影響を及ぼして、まぶたの開きを良くします。これらの成分による手術への影響避けるため配慮して麻酔を行いますが、100%避けることも不可能です。これらの成分の作用は一時的なものなので、術後しばらくすると影響が消えますが、これら成分がまぶたに対して左右非対称な影響を与えている場合、術中定量がやはり極めて難しくなります。
上記①腫れ及び②麻酔がまぶたの開き具合に対して大きな影響を与えてしまった場合、仮に術中にまぶたの開き具合を揃えていたとしても、術後に腫れや麻酔の影響が消えたとき、まぶたの開き具合に左右差が生じる可能性があります。また、腫れや麻酔の影響のより、術中にどのようにしても左右のまぶたの開き具合が揃わないときもあります。この場合は腫れや麻酔の影響を考えて手術をコントロールすることもあり得ます。
左右の眼瞼挙筋の筋力差など、腫れや麻酔以外にも左右差が生じる原因はありますが、最も大きな要因はこの2つとなります。
(2)左右差が出てしまった場合
①まぶたの開き具合に左右差がある場合
まぶたの開き具合はMRD-1という指標を基に評価ができます。術前、術後のMRD-1を計測し左右差を客観的に評価します。この差が一定以上の水準であれば有意な左右差があると評価し、再手術を検討します。逆に、この差がわずかであれば有意な左右差はないため、(眼瞼下垂手術としては)再手術は行わない方針と判断します。
実際に、手術に関係なく、0.5mm程度のまぶたの開き具合の差がある人はかなり多く、わずかな目の開きの左右差は多くの人にありますので、この判断は妥当と考えます。
②開き具合以外の左右差がある場合
開き具合の左右差がある場合、その左右差を構成する可能性のあるものは多岐にわたるため、全てをここで説明するわけにはいきませんが、大きな要因としては、見かけ上の二重幅と瞼縁カーブの形状の2つが挙げられます。
ⅰ)見かけ上の二重幅
まぶたを開いたときに見える瞼縁(睫毛の生え際)から二重に覆いかぶさってくる皮膚までの距離のことを「見かけ上の二重幅」と言います。これに対してまぶたを閉じたときに瞼の縁から二重の線のところまでの幅を単に「二重幅」と言います。
「見かけ上の二重幅」の左右差が生じる理由として、
等が挙げられます。
「見かけ上の二重幅」は元々左右でいくらか違う方のほうが多く、何もしていない目であれば逆に完全に左右対称である人の方が少ないかもしれません。しかし、この「見かけ上の二重幅」に左右差があるときに、例えそれが第三者的に見ておかしくなかったとしても大きな不満となる可能性があります。
ではどこからどこまでが、眼瞼下垂手術としての修正手術の対象とするかの線引きはかなり難しい問題です。元々眼瞼下垂手術を保険で行った場合、これは眼瞼下垂という病気に対して治療を行っています。
これに対して「見かけ上の二重幅」が変でないにも関わらず、見た目上の問題で修正するというのは美容整形の問題になります。
気になるなら何でも眼瞼下垂手術の範囲でしますよ、と言うわけにはいきません。
ですので、第三者的に見て変ではない、あるいは許容されるレベルと判断されれば、眼瞼下垂手術の範囲内で修正手術を行うのは不適と判断します。
このあたりの判断は主観要素がからむためかなりデリケートではありますが、実際の診療でも極めて軽微な左右差や、他覚的に左右差がほぼ感じられないケースであっても左右差があると主張される方は一定いらっしゃいますので、医師が常識的な判断を持って行うこととしています。患者様の主観で決めていない点はご不満を持たれるのは重々承知しておりますが、保険給付の主旨を考えれば一定の線引きはやむを得ないと考えています。
ⅱ)瞼縁カーブの形状
多くは目頭側(鼻に近い方)の開き具合が悪いと目が吊り上がったように見え、それを気にされる方パターンが多いのではないかと思います。元々、この部分の開き具合が悪い方というのも普通にいますから、これも一概にどこからどこまでが異常と言いにくく、絶対にどうしたら良いとは言えません。また、まぶたの目頭側は、生理的に筋肉の脆弱な部分で開きを良くしにくいことも実際上多々あります。修正により問題なく上がることもありますが、希望とするレベルまで上がらない、あるいは思うようなカーブにならないこともあります。
このような場合も、「見かけ上の二重幅」と同じですが、眼瞼下垂手術の範囲内で修正手術を行うことが妥当かどうかを医師が個々の症例において判断して決めております。
まとめ
当院では眼瞼下垂手術を年間約1,000例行っております。左右差を極力生じないように考えて手術を行っておりますが、どうしても術後の左右差が生じる可能性を排除することはできませんし、左右差を全く生じさせずに手術を行える医師というのも存在しません。当院の例で言えば、再手術を行う確率は約3%です。
今回は、もし左右差が出てしまった場合の当院の考え方について説明しました。保険給付で眼瞼下垂手術を行っている以上、患者様のご要望の全て受け入れるわけにはいきませんが、多くの手術を行うことで手術スキルを日々向上させ、より多くの方にご満足いただける手術を提供していきたいと考えています。